離職を防ぐのは、制度より1on1の質かもしれない
離職対策で給与や制度に手をつける前に。辞める理由が「見えていない」ことこそ本当の問題で、1on1の質がそれを変えるという話です。
- 離職対策で給与や制度に手をつける前に、確認したいことがあります。「なぜ辞めるのか」が、本当に見えているか。
- 退職理由は「一身上の都合」で隠れます。見えない理由に施策を打っても、床を拭き続けるのと同じで、水は漏れ続けます。
- 制度より先に効くのは、辞める理由が言葉になる場——質の高い1on1かもしれません。
「また辞めてしまった」の、本当の問題
地方の中小企業と話すと、一番の悩みは人材確保だという声をよく聞きます。「人がいない」「すぐ辞める」。
ただ、その「なぜ辞めるのか」について、深く語られることは意外と少ない。退職理由をアンケートで聞いても、本当のことを書く人は多くありません。「一身上の都合」で終わる。だから、表面の理由に対処しても、また同じことが起きます。
水漏れしている家を想像してみてください。床が濡れているのは見えるから、タオルで拭く。でも、どこから漏れているかを確認しないと、タオルをいくら替えても床は濡れ続けます。離職も、これに似ている気がします。
給与や制度は、見えている症状への対処
「辞めるなら給与を上げよう」「福利厚生を手厚くしよう」。これらは、見えている症状への対処です。
もちろん、給与が明らかに低ければ効きます。ただ、多くの場合、辞める理由はもっと複雑で、本人も言葉にできていないことが多い。地方では特に、距離が近いからこそ相談できない、という構造があります。「不満があります」と言った後で気まずくなると、近い環境だからこそ居づらい。だから口に出せないまま、ある日突然、退職届が出る。
制度をいくら整えても、この「言えないまま辞める」構造には届きません。必要なのは、辞める理由が安全に言葉になる場です。
1on1が「質」を持つと、何が変わるか
ここで効いてくるのが、1on1です。ただし、形だけの1on1ではなく、質のある1on1です。
質のある1on1では、こういう問いが出てきます。「辞めていった人に、共通点はありますか」「入社何ヶ月目に辞めることが多いですか」「その時期に、社内で何が起きていますか」。
答えようとすると、今まで気にしていなかったことが急に見えてきます。「そういえば3ヶ月目が多い」「3ヶ月目は最初の仕事を一人でやり始める時期だ」「フォローが薄くなるタイミングかもしれない」。ここまで来ると、打ち手が変わります。給与を上げるより、3ヶ月目のフォロー体制を見直す方が、ずっと効くかもしれない。
1on1の質とは、答えを渡すことではなく、本人の中にある答えを、問いで引き出すことです。壁打ちと同じ構造です。
質のある1on1に必要な3つのこと
経験上、機能する1on1には、共通した条件があります。
一つは、正式な場として設けること。日々の雑談で汲み取ろうとするのには限界があります。四半期に一度でいいので、ちゃんと時間を取る。話した内容はデータで残し、次回に「前回こう言っていた、今どうか」を確認できるようにする。積み上がって初めて、機能します。
二つ目は、プロフェッショナルな距離を保つこと。地方の人間関係の近さは強みですが、馴れ合いになると本音が出ません。上司と部下が友人同士になると、「頑張れ」「気合いだ」という精神論だけが残る。私情を切り離してプロとして向き合うと、逆に本音が出やすくなります。
三つ目は、聞いたことに応えること。場を作ると、「聞いたのに何も変わらない」という不満が生まれることもあります。できることは実行し、できないことはなぜできないかを返す。それだけで、受け取り方はかなり変わります。
制度は、その後でいい
制度設計が不要という話ではありません。ただ、順番があると思っています。
まず、辞める理由が言葉になる場を作る。そこで見えてきた本当の原因に対して、必要な制度を設計する。この順番なら、制度は効きます。逆に、原因が見えないまま制度から入ると、水漏れの場所を確認せずに家を建て替えるようなことになりかねません。
自分のことを考えてくれている会社だ、という実感。自分もこの会社の一員だ、という感覚。それは制度からではなく、質のある対話から生まれることが多い気がしています。